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はさみの即興アート


by vividtone

愛してやまない幼馴染

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地面がもう少し近かったころのこと、雨の日の土や草の匂い、転んだときの砂利の感触、帰り道にある田んぼのぬかるみ。

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そんな風に、私の中で生々しく記憶にあるのは自然だけではない。

私は幼馴染たちのことが大好きで、目を閉じると昨日のことのように浮かんでくる
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友達ひとりひとりの表情や、服の着方、上履きの汚れ、しぐさ、声、その瞬間がいつかは過ぎ行くものと何と無くわかっていた。楽しくて嬉しい後は、いつも寂しい。
いつか自分は残しておきたいと思って、みんなを見守っていた。愛してやまなかった。



『ポンコツの話』


秋頃は、昼は工房で切り絵をして、夜お父さんの店を手伝いしていた。
毎年恒例である。

その深夜の帰り道で、保育園から一緒の幼馴染の尾鷲に会う。私の絵にもランドセル姿で時々登場する。

私は、防寒服に灰だらけに前掛け、オンボロで見れたものじゃない姿にも関わらず、尾鷲の姿を見かけて嬉しくなり思わず声をかけてしまった。

切り絵を始めてから、切り絵の人になってしまった私だけれど、切り絵の人じゃない頃を知っていて付き合いがある幼馴染の存在は大きい。

尾鷲と話していても疲れきっていたせいか、うまく言葉が出ない。
もたもたしていたら、残業がある工房に尾鷲が付いてきてくれた。

作業しながら、尾鷲に近状や共通の好きな話をした。
尾鷲がいてくれるおかげで、私は今なんとか作業ができる。

ふと、我に帰ると汚い格好で、手際も悪い、ぐだぐだである。懸命にやっていれば報われると思ってきたけど、何か大切なものを置いてきてしまった気がする。

ものを作る人としても、女性としても、大人としても半人前すぎて虚しい気持ちになっていた。
眼鏡に座ろうとしてしまったり、はさみがどこか分からなくなったり、、
失敗して、腑抜けてしまっている私に尾鷲は

「お前、そんなポンコツになっちまって…」

と、いつもの調子で少し笑って言ってくれた。
私は、その言葉に照らされたみたいになった。「そうなんだよ、わたしポンコツになっちゃったんだ」
尾鷲は、そんなことは対して問題じゃないって感じで笑って許してくれる。私を昔から知る幼馴染の言葉に嬉しくて思わず涙ぐんでしまった。大丈夫、と言われた気がした。

尾鷲は慌てて
「ポンコツっていうのは、いつもお前がポンコツってわけじゃなく、すぐ直る故障だからな!」
と、フォローしていた。

尾鷲は遅くまで手伝いしてくれた。

帰り道、星をみながら懐かしい話もした。小学生のころ、こうだったね、あんなだったね。でも、お互い知らないことばかりだった。

3時間くらい付き合ってくれた。足元はよく見ると裸足にサンダル。
寒くないか聞いたけど、大丈夫と言っていた。本当は寒かったんじゃないかな。
申し訳ないけど、救われたな。
ありがたいな。

次の日、実は尾鷲は風呂上がりに家族に頼まれたアイスを買いに来ていたことが判明する。
全部溶けちゃっていただろうに。
悪かったなぁ。
優しいなぁ。


そんな温かい幼馴染の話を、、、
次の日、尾鷲がまさかのイベントに手伝いにきてくれる。そこで一波乱。

つづく

by vividtone | 2015-01-08 04:04