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はさみの即興アート


by vividtone

私を受け入れる風景

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こどもの頃から私が一番恐れていたことは、この田舎町から出られないことだった。

大人になって、髪をのばし、化粧をして、ハイヒールを履けば
綺麗になり…変わるものだと思っていたのだ。

高校生になったある日、そんな急に美人になるはずがないことも、突然大人になったと境界線を踏むこともないのだということに気付いてしまったのだった。

せめてこの田舎からは出ようと、魚屋さんの奥さんが赤ん坊を背負いながら仕事をしているのを横目に思っていた。

けれど、いい歳になってきたというのに私はここにいる。
どうして、と私自身とにらめっこしてた。東京へ行った帰りに。
地元のローカル線に乗ると、すぐに時間の流れが穏やかになって本を開いていた手が緩んだ。

人の少ない電車の中で柔らかに差す日を背に、部活帰りの高校生がうとうとしていた。
小麦肌の彼が、深い眠りについてしまった背後に緑の田んぼが広がった。

はっとした。
人は愛しさが溢れるとき、きっと はっとするんだ。

私の身体に染みついた、はっとする瞬間を私はすぐに忘れそうになるけれど、心になんにもなくなるときに、そっと栄養をくれるんだ。

私が自給自足をするために、私がここを選んでいる。
そう気付いてしまった。

どこまでも続く緑の田んぼ。寝息をたてる小麦肌の青年の制服の白。 
by vividtone | 2007-08-18 12:14